無題
5題-5.普通。とワタシは答えた
手鏡に映った私はまるで見違えるようだった。
きめ細かく塗られたおしろい、ふっくらと赤い弧を描く唇。
斎の飾り簪が耳の上でしゃらと涼しげな音を立てる。
「とてもおきれいですよ」
支度を手伝ってくれた侍女が、私が吃驚している様子を見ながら満足そうな声を寄越す。
「早くしろ、祭が終わってしまうではないか」
自分のあまりの変わりようにどぎまぎとしている内に襖の開く音がして、千景が覗いた。
細く切れ長な目が丸くなっていた。
じっと見つめられて恥ずかしくて私はふいっと視線をずらす。
「顔が赤くなっているぞ」
からかう様な彼の声が耳の中で響いてくらくらとした。
千景の声は好き。
低くて艶ぽくて。
「熱でもあるのか?」
「ひぁっ!?」
不意に耳元に息が掛かって私はあわてて飛び退った。
その様子ににやにやと意地悪な笑いを浮かべたまま、千景は私の傍らに膝をついていた。
完全に背を向けてむくれたように私は叫んだ。
「ふ、普通ですよっ!!」
「さあ、支度ができたならさっさと行くぞ」
差し出された千景の手に、まだ戸惑いを感じながら
私はそっと自分の手を重ねた。