仔猫
『みゃお〜』
と鳴いたのは茶色の仔猫。
近所から貰って来た山羊の乳を指先に付けて、鼻の前に差し出すと夢中で小さな舌を動かしてぺろぺろと舐める。
「あは、可愛い」
思わず零れた言葉に、みぃみぃと甘えるようにもっとと乳を催促する仔猫。
ずっと夢中でその仔を見ているうちに、傍らから声が響いた。
「飼うのか?」
しまった。
気配がないのもあって、側に斎藤さんが居ることなどすっかり忘れてしまっていた。
「飼いたいなぁと思いますが……いたっ」
肩越しに其方を向いて応えると、今度は仔猫の方がそっぽを向かれて手に細い爪を立てる。
機嫌を取るようにもう一度、乳を指先につけて与えると小さなしっぽが勢いよく振られる。
「名前付けてあげないとなぁ」
「だいたい甘やかさずとも乳くらい一人で呑めるだろう」
「でも、小さいし鼻に入っちゃうとかわいそう」
「死にはせぬ」
いつもより少し乱暴なその物言いに、不思議になって目線だけあげると、
視界の隅で僅かに顔をしかめた斎藤さんが見えた。
あれ……?
「斎藤さん、なにか機嫌悪いです?」
「っ……馬鹿をいうな」
と返す声の端が微かに震えて聞こえた。
「?」
猫を胸に抱いたまま、そっぽを向けたその顔を覗き込むとへの字に結んだ口元が、少し尖っているようで。
あれ? こういうのってひょっとして……?