きみと夏まつり
4.喧騒に紛れてキスをした
「あれ」
兄上は母からの頼まれごとで、唐辛子の屋台を探しに行ってしまった。
待っている間、縁日の端のほうで木に寄りかかって人の流れを眺めていると、
良く知った顔が此方へと近づいてきた。
「総司? なにしてんの」
「井上さんと来たんだけどはぐれちゃってさ……そっちこそ何してるの」
「兄上を待ってるの」
ふうんと目を細めた総司の背中越しに、兄上の頭が見えた。
それに気づいた総司は木をぐるっと影の方に回り込んで、そして私の顎をひょいと持ち上げた。
ちゅっと軽く総司の唇と私の唇とが合わさった。
すぐに顔を離した総司は悪戯っぽく笑うとくるりと向きを変えて、
「じゃあもう少し、ぼくも井上さん探してくる」
と手を軽く挙げながら、人ごみの中へと走っていった。