きみと夏まつり
5題-2.はぐれない方法
宵山の日。
私は四条通りを一本入った所にある小さなお社に向かっていた。
さすがに屯所の近くでは周りに何を言われるか分からない。
敢えて少し遠くでこっそりと待ち合わせというのも、なんだか二人だけの秘めごとのようでどきどきした。
夕刻、西の山に陽が落ち掛かっていた。
鐘の時間に間に合うように少し早足で行けば、お社の前には腕を組んだ斎藤さんが鳥居を背に佇んでいた。
遅れをとったのに気づいて、慌てて小走りで駆け寄る。
「お待たせしてすみません」
「いや、俺も今しがた来た所だ」
此方を見た斎藤さんと目が合うと、自分の顔がふっと緩んでいくのが分かった。
「この辺からもう人でいっぱいですね」
「そうだな」
少し何かを考えてから、私の目の前に齊藤さんの右手が突き出された。
「はぐれるといけない。掴まっておけ」
「あ……はい」
斎藤さんの方からこんな所で手を繋ごうと言われるのは初めてで、なんだか妙に胸がざわめいてしまう。
おずおずといつもの通り彼の薬指と小指を握り締めると、明るいのもあってなんだか気恥ずかしい。
右手同士で繋ぎあうのは周りから見ればやはり少し不自然ではあるのだろうけど。
汗がひいてひんやりとした斎藤さんの指は暑さに心地よかった。
「いくぞ」
少し赤くなった私に軽く笑いを向けてから、彼はいつものように私の二歩前を歩き出した。
24.8.16
確かに恋だった
Ref.Bakumatsu-souwa
Amenohi-Glass-ni-Anata-no-namae.
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